小筆文字が得意になる!小筆の使い方7つのコツ

1:正しい筆使いって何??

 ボールペンや鉛筆など硬い筆記具になれていると、毛筆もその調子で書いてしまいがちです。しかし、あなたの命令通りに表現してくれる硬い筆記具とは逆で、毛筆の場合は常にそのご機嫌をうかがう感覚を持って書かなければ適切に操れず、汚い線にしかなりません。毛の束の状態をどの程度把握できるかが、筆使いの理解度となります。

 

 テキストや動画を見ても、具体例で字形の特徴、線の角度、線と線の間隔などを説明されるだけでなんかしっくりこない、実際の上達につながっている実感がわかない、そんな風にお思いの方も多いのではないでしょうか。

 

 おそらくその原因は、毛筆書きで最も難しい部分、すなわち「筆使いをいかに理解していくか」にそれらのテキストや動画が触れられていないからだと思います。私が初心者だった頃の感覚を思い出すと、当時最も謎で苦しかったのが、筆使いでした。筆を方向転換させたり回転運動させたりすると、順調に書けていた線がとたんに不安定な線、粗雑で見苦しい線へと変化してしまうのです。字形とか、線の隙間を均等にするとか・・・そんなことをいくら教わっても、筆使いの理解にはつながりません。

 

 

正しい筆使いの明確な答えはない!?

 では正しい筆使いとはそもそも何なのか。それを明確に定義づけることは非常に困難です。なぜなら、一生かけて書家が究明していくようなものだからです。書家ですら四苦八苦しながら延々と試行錯誤していることです。最終的には偶然性にも頼ります。それほど筆使い、筆運びといった、毛筆を操る行為は難解なのです。

 

 とすると、習字の先生が、「ここの筆使いはこうです」と断定的に言う内容も、実は「こんな感じだと私は今のところ信じている」という話なのです。その教えの正否はその先生の境地次第であり、誤りもあるでしょう。習字や書道において先生という存在は、何か明確な答えを知っている達人ではなく、あなたと比べれば理解度が高い可能性があるというだけです。先生たちも、実はわからないことだらけなのです。

 

 ですので、「今回は上手く書けたからこの筆使いは正しいかもな」という感覚を自分自身で積み上げていくことが大切なのだろうと思います。

 

 

2:書く速さが、意外と重要!

【清書・本番、つまりいざ作品をつくるというとき】

 書く速さは、速すぎず遅すぎずが肝要。速すぎれば粗雑な線しか書けませんし、遅すぎれば線が不安定になりますし勢いも無くなります。ただし、要所要所では遅すぎるような書き方がむしろ重要となります。

 たとえば、初心者が最初に苦手意識を持たれる右払い。あの三角形みたいな払いの形をつくるところでは、スピードをぐっと落として書いてください。ハネやハライの場所は粗雑に書くと、字全体の印象が一気に醜くなってしまうので、スピードを落とすことを忘れずに書いてください。

 

【練習のとき】

 いびつな線になるのを避けようとして、一気呵成にシュッと書いてしまいがちですが、誤りですのでご注意ください。ゆっくりのスピードで我慢して練習することが上達のコツです。

 清書・本番では適度なスピードで書いてくださって結構です。一方、練習時にゆっくりのスピードで書く意義は、未開発の神経に特殊な動きを覚えこませるためです。ゆっくり書くと、神経が未開発な難しい場面では手が震えてくると思いますが、それでいいのです。それはあなたの伸びしろです。震えることで汚い線になってしまっても、それでいいのです。その神経を育てて操れるようにしない限り、勢いでごまかすだけの深みの無い線から永久に脱却できません。

 

 

3:筆の毛束が紙をしっかり捉えて、圧力がかかることが大切

 鉛筆を持つように筆を寝せ気味に持ち、さらりさらりと軽いタッチで紙をなでるような書き方をあなたはしていませんか?

 

 書道では、筆の毛束が紙をしっかり捉えて圧力がかかることが大切です。ただし、筆の毛束がどのような状態でも、とにかく筆圧を強くして書いてくださいという意味ではありません。ただ単純に筆圧を強く書けばいいだけならば簡単なのですが、そうではありません。毛束の弾力を最大限発揮させて書くことが大切、ということです。

 

 ちなみに、毛束で紙をなでるように書こうが、紙に食い込ませるようにして書こうが、結果的に黒い線を書くだけなのに、毛束の状態次第で線や字に影響があるのか?という疑問もあるかもしれません。

 

 しかし「ある」のです。一見すると同じ太さの黒い線でも、どのような状態の毛束でどのような筆さばきによって書かれた線なのかによって、線の輪郭は全く異なってきます。印象としては、重みや存在感、立体感など、美しさが違ってくるのです。書の奥深さであり、難解な技芸の一面です。

 

 

4:曲線の扱いを誤れば、愚の骨頂になるから注意!

 どの画を書く場合でも、基本的には直線的に書くことを意識し、曲線を書く場合はヘビみたいなにょろにょろした線にならないように注意しよう。

 

 私も昔は、ヘビみたいな線を書いていました。師匠の流麗な線や抑揚の妙技に魅せられて、それを真似してもずっとヘビのような線しか書けませんでした。その頃の私は、師匠の線が実はしっかりとした直線的な骨格が本質にあることを見抜けずに、その抑揚の妙技による錯覚で、単なる曲線として認識してしまったのです。だから、曲線を書くことばかりにとらわれて、ふにゃふにゃの線ばかりになっていたのです。

 

 つまり、ポイントは、「ほんの少し」を意識することです。初心者に多い傾向は「やりすぎ」です。曲線にしようとすると極端に強烈な曲線にしてしまうのです。あくまで直線の骨組みなのを少しだけ曲げるのだという意識で書くようにしてみてください。しっかりと骨のある字へ変化します。

 

 

5:ハネは、トメの後にちょこっと顔を出す程度に!

 これも、初心者がやってしまいがちな傾向ですが、ハネの「やりすぎ」です。筆文字の美しさの大きな要素として、ハネやハライを捉えているからでしょうか、かっこいいハネを書こうとするあまり勢いをつけてガツンとかちあげるようなハネの書き方をしてしまっているのです。これも、曲線の「やりすぎ」な表現同様に、非常に醜い字、痛い字になってしまうので要注意です。基本的には、トメをした後にちょこっと顔を出すのがハネだ、くらいの意識で書くようにしてみてください。品のある字になります。

 

 

6:「点」の書き方は、「線」を書くときと同じように書く!

 「点」は、実は非常に奥が深く、書き方を体得するのが本当に難しいものです。ちょこんと筆を何気なく置いて抑えつければよいというわけではなく、かといって、深みを出そうとして無駄にぐりぐりと筆を押しつけるような真似をすれば、もはや線の軌跡は消え去り、黒い塊となるだけです。当然、醜さや下品といった印象につながります。

 

 まずはこんな認識をもってください。「点も、線を書くのと一緒」だと。点を書くときにも、始筆を書き、送筆を書き、収筆しなければいけないんだということを念頭に置いて書いてください。「線」は結構うまく書けるようになったのに、「点」の書き方は適当に筆を置くだけ、なんてことになっていませんか。「点」は、「線」が極端に短くなったものという認識に改めてみてください。そうやって書くことで、意味のあるパーツとして点の存在が確かなものとなります。字全体の印象がぐっと良くなりますよ。

 字全体の印象は、字のあらゆるパーツ(画)がそれぞれの役割を発揮して構成されています。軽視してもOKなパーツなど、一つも無いのです。

 

 

7:最初の手本は、楷書フォントでもよいと思う

 お手本は何を見て書けばよいか。最初は楷書のフォントを大きく表示してお手本にする方法でも良いと思います。どのパソコンにも最初からたいていいくつかの楷書フォントが入っているはずです。その中から、ご自分の感性に合う書風のものを選んでください。

 

 より本格的な筆文字の学習方法となると、古典(昔の名人が書いた書)を手本にした練習が必要になってしまうのですが、そこまでは深入りするつもりのない方が、とりあえず、最も手軽に手本を用意する方法としては、楷書フォントがよろしいかと思います。習字の先生の朱墨のお手本を真似て書かなければ上達しないなんてことは、全くございません。

 

 もしプリンターをお持ちなら、練習したい語句をワードソフトで打って印刷して下さい。その際、薄~い印刷濃度にするか、文字色を薄~いグレーにして下さい。それをなぞり書きして練習すれば、「基本的なきれいな字形」や、「へんやつくりなどの各パーツのサイズのバランス」、「始筆終筆の形」などを学べます。

 

 習字の先生には、毎回自分の好みの語句を指定して手本を書いてもらうようなことができませんが、楷書フォントなら自由自在です。

 

 

 もし名前書きなどの目的を超えて、もっと本格的に筆文字を学びたい方や、より美しい字を書けるようになりたい方は、書店の書道コーナーで手本をお買い求めください。(もちろん図書館の本のコピーでもよいと思います。)その際のコツですが、現代人が書いた美文字ハウツー本の類は避けて、昔の人が書いた字のものを選んでください。いわゆる「古文書」の写真などが載っているものです。その中で、自分の感性で美しいと思えるような楷書体のものを選ばれるとよろしいかと思います。

 

 現代人のハウツー本をおすすめしない理由は、古文書の字の方が比較にならないほど優れた字だからです。得られるものが遥かに多く、“100倍”実りあるものになります。

 

 

おわりに

 お読みいただきありがとうございました。一朝一夕には上達しない毛筆書きですが、上達に役立ちそうな内容を心掛けたつもりです。

 

 小筆に限らず、大筆で書く場合にも同じことがいえる内容になっております。筆文字の練習に、お役に立てていただければ幸いです。