小筆文字が得意になる!小筆の使い方8つのコツ

 結婚式などでの芳名録への名前書き、御霊前の不祝儀袋への名前書きなど、しょっちゅうではないにしても自分の名前を毛筆で筆書きしなければならないシーンはあるものです。テキストや動画を見ても、具体例で字形の説明などをされるだけでなんかしっくりこない、実際の上達につながっている実感がわかない、そんな風にお思いの方も多いのではないでしょうか。

 おそらくそれは、最も難しい部分、すなわち「筆使いをいかに理解していくか」にそれらのテキストや動画が触れられていないからだと思います。私が初心者だった頃の感覚を思い出すと、当時最も謎で苦しかったのが、筆使いでした。筆を方向転換させたり回転運動させたりすると、順調に書けていた線がとたんに不安定な線、粗雑で見苦しい線へと変化してしまうのです。字形やら線の勢いやらハライの形やら、そんなことを教わっても、筆使いの理解にはつながりません。

 そういうわけで、筆使いを理解していくための姿勢、そこに焦点を合わせた内容を作成いたしました。感覚的なニュアンスを言葉にしておりますので、わかりにくい部分も多々あるかもしれませんが、この方法を念頭において練習いただき、小筆を使った名前書きなどが少しずつ得意になっていただければ幸いです。

1:正しい筆使いって何??

硬筆の感覚を捨てて、毛束のご機嫌うかがいの姿勢を!

 ボールペンや鉛筆など硬い筆記具になれていると、毛筆もその調子で書いてしまいがち。あなたの命令通りに表現してくれる硬い筆記具とは逆で、毛筆の場合は常にそのご機嫌をうかがいながら書かなければ汚い線にしかなりません。つまり、筆先の様子、毛の束の状態が今現在どのようになっているのか、そういった情報をいちいち確認しながら書くことが必要です。それをどの程度把握できるかが即ち筆使いの理解度となります。

定義付けは結局不可能!?

 では正しい筆使いとはそもそも何なのか。それを明確に定義づけることは非常に困難です。なぜなら、一生かけて書家が究明していくようなものだからです。書家ですら四苦八苦しながら延々と「あ~でもない、こ~でもない」と試行錯誤していることです。最終的には偶然性にも頼ります。それほど筆使い、筆運びといった、毛筆を操る行為は難解なのです。

 

 とすると、習字の先生とかが、「ここの筆使いはこうです」と断定的に言うのはどういうことでしょうか。それは、厳密にいえば、「少なくともこういう書き方は間違っている、どちらかといえばこんな感じ」という話なのです。習字や書道において先生という存在は、何か明確な答えを知っている人ではなく、あなたと比べれば理解度が高いというだけです。先生たちも、実はわからないことだらけなのです。

正しい筆使いの具体的な習得方法はズバリ、筆を整えるな!

 要するにどうすればいいわけ?の問いについてご説明いたします。あなたが筆を使っているとき、途中で筆の毛束がもつれる、雑巾を絞ったような状態になる、ぐちゃぐちゃになる、つまり破綻した状態になることがあると思います。多くの場合、「もとに戻さなきゃ!」と硯の上で筆をならす作業をするのではないでしょうか。あるいは、毛束がもつれることを嫌うあまり、先回りしてとにかく一画書く度に硯の上で毛を整える作業をする人が見られます。習字の先生ですらそのようにしている方もおられるくらいです。これらの行為は完全なる誤りですので、覚えておいてください。何かの縁でこのサイトをご訪問くださったあなたには是非理解しておいてほしい部分です。

 

 書いているときに筆の毛束がコントロール不能になってしまわないようにするにはどのような書き方をすれば良いのか、ということを念頭において書かずに、ただ漫然と筆を硯の上で整えることで良しとしていては、正しい筆使いなど何十年たってもできるようになりません。「筆の毛束がぐちゃぐちゃに捻じれてきた!」といった状況は、蓋をすべき臭いものではなく、正しい筆使いを知るための貴重なサインなのです。

 

 つまり「たった今、あなたの筆使いがおかしいから毛束が変な状態になりました」というメッセージなのです。このメッセージを敏感に感じ取って、どうすれば破綻なく書けるのかという意識をもって繰り返し書き直すことが重要なのです。

 

 さらに、筆を硯の上で一画書く度に整えてはならない理由が他にもあります。それは連続性がとぎれるからです。行書や草書はもちろんのこと、楷書であってもこのことは同じです。これはちょっとまだ理解しにくいかもしれませんが、正しい筆使いが連続することによって「立体感」が生まれるのです。言い方をかえると、線と線の交わりに前後の奥行きが生まれるのです。

 

 以上のようなことを念頭に置いて正しい筆使いを見つける作業をひとつひとつ積み上げてください。「今回はうまくいった!」という瞬間が練習中に必ず訪れます。感じるはずです。それを積み重ねていくということです。ハードルを乗り越える瞬間の嬉しさから、どんどん書くことが楽しくなっていきます。気楽に構えて継続することが大切です。

2:横画と縦画のポイント

 横画はわずかに右上がりに書く。横画が連続する場所では、平行に書くことを意識する。そして、要所要所で、少し反らし気味(弓なり)に書くことで力強さと安定感が増します。

 

 縦画は、横画よりも難度が高く苦手意識が続くと思います。なぜ縦画の方が難しいかというと、縦に線を書こうとすると筆先の高さが常に変化するからです。筆先の高さがゆらゆらと不安定に変化するのに、同時にそれを補正しながら書くことで一定の太さの線を書くわけですから、物理的に非常に難しいのです。その不安定さを一定に補正しつつ書くことに慣れることで、ようやく綺麗な縦線が書けるわけですが、相当量を書いて練習しなければどうしてもいびつな線になってしまいます。でも、これはしょうがないことです。特に縦のまっすぐなハライの画なんかは極めて難度の高い動きを求められる部分です。

3:書く速さが、意外と重要!

【清書・本番、つまりいざ作品をつくるというとき】

 書く速さは、速すぎず遅すぎずが肝要。速すぎれば粗雑な線しか書けませんし、遅すぎれば線が不安定になりますし勢いも無くなります。ただし、要所要所では遅すぎるような書き方がむしろ重要となります。

 たとえば、みなさんが最初に苦手意識を持たれる右払い。あの三角形みたいな払いの形をつくるところでは、スピードをぐっと落として書いてください。ハネやハライの場所は粗雑に書くと、字全体の印象が一気に醜くなってしまうので、スピードを落とすことを忘れずに書いてください。

 

【練習のとき】

 いびつな線になるのを避けようとして、一気呵成にシュッと書いてしまいがちですが、誤りですのでご注意ください。ゆっくりのスピードで我慢して練習することが上達のコツです。

 清書・本番では適度なスピードで書いてくださって結構です。一方練習において、ゆっくりのスピードで書く意義とは、未開発の神経に特殊な動きを覚えこませるためです。ゆっくり書くと、神経が未開発な難しい場面では手が震えてくると思いますが、それでいいのです。それはあなたの伸びしろです。震えることで汚い線になってしまっても、それでいいのです。その神経を育てて操れるようにしない限り、勢いでごまかすだけの深みの無い線から永久に脱却できません。

4:筆で紙を断ち切るようなつもりで、圧力をかける!

 初心者に教えていていつも思うことのひとつ、それは筆で紙をなでるように書いてしまっているということです。筆を寝せ気味に持ち、さらりさらりと軽いタッチでなでるような書き方をあなたもしていませんか?誤りですので直しましょう。「筆の毛束で紙の繊維を断ち切るのだ!」くらいの意識を持ち、紙に毛束を食い込ませるように書いてください。

 

 ただし、このことは、いたずらに筆圧を強くして書いてくださいという意味ではありませんのでご注意ください。ただ単純に筆圧を強く書くだけなら小学生の殴り書き的な習字が正解となってしまいます。少し難しい話なので理解しにくいかもしれません。紙に押しつける腕力のことではなく、毛束が弾力を最大限発揮するように書くことを心がけてください、ということです。

 

 ちなみに、毛束で紙をなでるように書こうが、紙に食い込ませるようにして書こうが、運筆している最中の筆の状態に果たして違いはあるのだろうか?と疑問をもたれるかもしれません。もっといえば、結果的に黒い線を書くだけなのに、毛束の状態次第で線や字に影響があるのか?という疑問もあるかもしれません。

 

 不思議なものですが、「ある」のです。一見すると同じ太さの黒い線でも、どのような状態の毛束でどのような筆さばきによって描いた線なのかによって線の重みや存在感、立体感が違ってくるのです。そういう部分も書の奥深さの一面です。

5:曲線の扱いを誤れば、愚の骨頂になるから注意!

 どの画を書く場合でも、基本的には直線的に書くことを意識し、曲線を書く場合はヘビみたいなにょろにょろした線にならないように注意しよう。

 

 私も昔は、ヘビみたいな線を書いていました。師匠の流麗な線や抑揚の妙技に魅せられて、それを真似してもずっとヘビのような線しか書けませんでした。真似ること、技を盗むことが上達への基本要素である一方で、一足飛びに習得を試みても空回りします。その頃の私は、師匠の線が実はしっかりとした直線的な骨格が本質にあることを見抜けずに、その抑揚の妙技による錯覚で、単なる曲線として認識してしまったのです。だから、曲線を書くことばかりにとらわれて、ふにゃふにゃの線ばかりになり、ヘビ文字になっていたのです。まずは、しっかりと直線的に書けるようになることが重要だったのです。

 

 さて、要するにポイントは何か。ポイントは、「ほんの少し」を意識することです。初心者に多い傾向は「やりすぎ」です。曲線にしようとすると極端に強烈な曲線にしてしまうのです。あくまで直線の骨組みなのを少しだけ曲げるのだという意識で書くようにしてみてください。きっと、格段に骨のある字へと上達します。

6:ハネは、トメの後にちょこっと顔を出す程度に!

 これも、初心者がやってしまいがちな傾向トップ3ですが、ハネの「やりすぎ」です。筆文字の美しさの大きな要素として、ハネやハライを捉えているからでしょうか、かっこいいハネを書こうとするあまり勢いをつけてガツンとかちあげるようなハネの書き方をしてしまっているのです。これも、曲線の「やりすぎ」な表現同様に、非常に醜い字、痛い字になってしまうので要注意です。トメをした後にちょこっと顔を出すのがハネだ、くらいの意識で書くようにしてみてください。品のある字になります。

7:「点」の書き方は、「線」を書くときと同じように書く!

 「点」は、実は非常に奥が深く、書き方を体得するのが本当に難しいものです。ちょこんと筆を何気なく置いて抑えつければよいというわけではなく、かといって、深みを出そうとして無駄にぐりぐりと筆を押しつけるような真似をすれば、もはや線の軌跡は消え去り、黒い塊となるだけです。当然、醜さや下品といった印象につながります。

 

 まずはこんな認識をもってください。「点も、線を書くのと一緒」だと。点を書くときにも、始筆を書き、送筆を書き、収筆しなければいけないんだということを念頭に置いて書いてください。「線」は結構うまく書けるようになったのに「点」の書き方はおざなりという人がとても多いです。「点」は、「線」が極端に短くなったものという認識に改めてみてください。そうやって書くことで、点に魂が宿り、意味のあるパーツとしてその存在感が格段に高まります。そして、字全体の印象がぐっと良くなりますよ。

 字全体の印象は、字のあらゆるパーツ(画)がそれぞれの役割を発揮して構成されています。軽視してもOKなパーツなど、一つも無いのです。

8:最初の手本は、楷書フォントでよい!

 お手本は何を見て書けばよいか。ズバリ、楷書のフォントを大きく表示してお手本にしてください。どのパソコンにも最初からたいていいくつかの楷書フォントが入っているはずです。その中から、ご自分の感性に合う書風のものを選んでください。

 

 より本格的な筆文字の学習方法となると、古典(昔の名人が書いた書)を手本にした練習が必要になってしまうのですが、そこまでは深入りするつもりのない方が、とりあえず、最も手軽にしっかりとした手本を用意する方法としては楷書フォントが一番です。お習字の先生にお手本をもらわなければ筆文字の練習はできないなんてことは、全く問題ございませんのでご安心ください。

 

 もしプリンターをお持ちなら、練習したい語句をワードソフトで打って印刷して下さい。その際、薄~い印刷濃度にするか、文字色を薄~いグレーにして下さい。それをなぞり書きして練習すれば、「基本的なきれいな字形」や、「へんやつくりなどの各パーツのサイズのバランス」、「始筆終筆の形」などを学べてしまいます。

 

 ちなみに、明朝体やゴシック体はもちろんお手本としては使えません。ただし、ひらがなに関しては明朝体も使えます。

 

 習字の先生には、毎回自分の好みの語句を指定して手本を書いてもらうようなことができませんが、楷書フォントなら自由自在です。

 

 

 もし名前書きなどの目的を超えて、もっと本格的に筆文字を学びたい方や、より美しい字を書けるようになりたい方は、書店の書道コーナーで手本をお買い求めください。(もちろん図書館の本のコピーでもよいと思います。)その際のコツですが、現代人が書いた美文字ハウツー本の類は避けて、昔の人が書いた字のものを選んでください。いわゆる「古文書」の写真などが載っているものです。その中で、自分の感性で美しいと思えるような楷書体のものを選ばれるとよろしいかと思います。

 

 現代人のハウツー本をおすすめしない理由は、古文書の字の方が比較にならないほど遥かに優れた字だからです。何事もそうだと思いますが、本物の師に教わった方が、得られるものが遥かに多く、上達は格段に早いのです。昔の人が書いた字をただ真似る作業、この練習の方が“100倍”実りあるものになります。

おわりに

 お読みいただきありがとうございました。一朝一夕には上達が難しい毛筆書きですが、より効率よく上達していただくために役立ちそうな内容になるよう心掛けたつもりです。

 

 小筆に限らず、大筆で書く場合にも同じことがいえる内容になっております。筆文字の練習に、お役に立てていただければ幸いです。