本格的に筆文字テクニックを上達させる方法

いわゆる習字や書写のような字だけはでなく、より深みのある魅力的な線質や字形を書けるように技を体得したいとお考えでしたら、「臨書」という練習法がおすすめです。臨書の始め方から上達のポイントまでをまとめました。

 

 

1:本格的に書技を学ぶためには、主に「臨書」という練習方法が効果的

【臨書】・・・古典を手本にして毛筆の学習をすることです。

 

【古典】・・・はるか昔(主に何百年~千年以上前)の能書家が書いた書。昔も今も書道における最高レベルの手本です。極めて難解な技の詰まった書で、書道では避けて通れない道です。

 

能書家・・・書において圧倒的な技量・表現力を持つ人物。書の実力者が現代よりも遥かに多い時代にあっても凄腕であると認められてきた、書の巨匠。

 

 

2:臨書のやり方

まずはお手本として「古典(古典法帖)」を買おう

 書道コーナーがそれなりに充実している本屋さんで、「古典(法帖)」を買いましょう。昔の人が書いたと見て取れるような古文書写真の本があれば、それです。(現代人の書いたハウツー本の類ではありません。)

 

 古典といっても、かなりの冊数がありますのでどれを選ぶかは迷われると思います。これは、あなたの感性で選んでほしいと思います。色々と見るうちに「こんな感じの字が好みだ」といったものが1冊はあるはずですので、それを選ばれるとよいと思います。

 “おすすめの古典法帖”よりも自分の美的感性に強く響いたものを選ぶことで、吸収力やモチベーションが高まるでしょう。

 

 石碑(白黒反転しているようなタイプ。拓本。)の古典もありますが、まずは肉筆のものの方が見やすくて練習しやすいです。

 

 

道具をそろえて、早速書き始めてみましょう

 古典(法帖)を机の左、または正面に置き、習字セットのように一通りの道具をそろえて、早速書きましょう。まずは難しく構えすぎず、とりあえず書いてみる、そこからスタートです。

 

 道具につきましては、とりあえずは、筆と墨汁と下敷きのフェルトと文鎮と半紙さえあれば書けますので、難しく考えすぎないように書き始めてみてください。

 やっていくうちに、道具への興味も色々と湧いてきますので、それも今後の楽しみの一つです。

 

 

古典(法帖)を手本にする・・・まずは手本の文字サイズにとまどう

 今までは習字や書写の学習の際に、半紙とほぼ同じサイズのお手本を左において、同じ文言を何度も繰り返し書くというのが当たり前だったと思います。しかし、古典法帖を見ながら書く「臨書」におきましては、様子が異なります。まず、手本の1文字あたりのサイズが約3cm四方と小さいです。

 

 古典法帖の印刷サイズのままですと、学習するには小さくて見にくいと感じるかもしれません。ある程度拡大印刷して見やすくするのが理想的です。もしくは、はじめから大きく拡大印刷された古典法帖テキストも最近は豊富にありますので探してみてください。字の細部の表現まで容易に見えますので、上達効果が高まります。

 

 

「どこが上手いの?」と思ってしまうような字が沢山ある!?

 古典法帖をご覧いただくと、習字で見慣れた字のように、とても整っていて美しい印象の字もあれば、もしかしたら、「これ、どこが上手いの??」と思うような字もあるでしょう。現代人の感性は、長年、楷書フォントや習字の文字を美しさの基準として刷り込まれた感性ですから、古典にみられるような一見アンバランスな字などは、魅力的に思えないのも無理はありません。

 

 しかし、そこにも、高度な格調と技が詰め込まれています。単なる下手な字とは全く別物なのです。

 

 ですから、古典の筆文字を見ていて、自分の感性では美しいと思えない字に出くわした際には、「この字をこのように書いた意図は何なのだろうか?」と、美の本質を探す姿勢が大切です。「古典」は長い歴史の中で淘汰されずに評価され続けているものですので、およそ学ぶ価値のないものなどは出版されていないと思ってよいです。巨匠の感性を信じて、自分なりに咀嚼して、自分の感性をより豊かで深みのあるものに育ててください。

 

 

3:練習のポイント

古典の筆文字を手本として書く・・・どんな風に? どこに着目して?

 こんなことを念頭に置いて、練習してみてください。

 

●筆の入り方はどんな感じにすればいいだろうか。(始筆に着目)

 

●線の終わりはどのような形になっているだろうか。(終筆に着目)

 

●線の太い細いの変化がどのように書かれているだろうか。(抑揚に着目)

 

●線は右上がりか、水平か、右下がりか。(線の角度の変化に着目)

 

●線と線の距離感はどのくらいだろうか。(線そのものよりも余白部分に着目)

 

●文字のシルエットは扁平なひし形だろうか、縦長の長方形だろうか、平行四辺形だろうか、台形だろうか・・・。(文字全体の輪郭の形に着目)

 

 

 なんとなく見ながら書くのではなく、こういった概念を念頭に置いて、学び取るポイントを明確にして観察しながら書くことで上達効果が高まります。1画1画手を止めながら、見えるままそっくりに書くという姿勢で書いてください。

 

 半紙1枚には4文字書いてもよいですし、2文字でも1文字でも構いません。あたながその日書きたいと思った字数のレイアウトでお書きください。

 

 

自分の書いた字と手本を見比べる作業が、着実な上達へのカギ

 書いた枚数にのみ成長を期待するのではなく、「こうするべきだったかな。次はこうしてみよう。」とご自分の書いた字の見直し作業も大切です。

 

 ちなみに、私が中学高校の頃、上手くなりたいとひたすら書いてはいましたが、ほとんど上達はありませんでした。とにかく沢山書けばいつか上手くなるはずだ、着実に成長はしているはずだと思い込み、枚数を積み重ねることを希望の光にして進んでいました。

 そんな漫然とした練習では、上達など望むべくもありません。もはやほとんど意味のない練習で、莫大な時間の無駄遣いでした。思考停止した練習ではだめだったのです。

 

 

おわりに

『着目ポイントを念頭に置いて「書く」 → 改めて手本と見比べてみて「反省」』

 

 これの繰り返しが臨書による基本練習です。高価な半紙を使う必要は全くありませんので、この基本練習を気楽に、地道におこなってください。結果を早く求めたいお気持ちもわかりますが、字形を学んだり、筆の性質を体得していくことは容易いことではありませんので、気長に構えて練習を継続することが大切です。 

 

 


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